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仙台高等裁判所 昭和53年(行コ)11号 判決

控訴人 佐々木正三

被控訴人 青森地方法務局長 ほか一名

代理人 笠原嘉人 藤田秀次郎 角田春雄

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

原判決中被告青森地方法務局長の氏名を「遠藤善輔」と、被告青森地方法務局八戸支局登記官の氏名を「平山孝吉」と各更正する。

事実

控訴人は「原判決を取消す。本件につきこれを原審に差戻す。」との判決を求め、被控訴人両名代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は次のとおり付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

控訴人は控訴理由として次のとおり述べた。

(一)  原審訴状に記載した訴額は、訴訟物の価額の算定基準についての最高裁判所事務総局民事局長通知(昭和三一年一二月一二日民事甲第四一二号)内容、即ち所有権の目的たる物の価額は地方税法第三四九条の規定による固定資産税の課税標準となる価格のあるものについてはその価格とし、その他のものについては取引の価格とするとの通知に基き算定すべきものであるところ、本件未登録番外地(三〇二〇平方メートル)は土地課税台帳に登載されていないため、固定資産税の課税標準となる土地の価格がないので、近隣の前田菊次郎所有の八戸市大字澤里字藤子四五の一二畑八七三平方メートル(区画整理による仮換地地積四九〇・一七平方メートル)の課税標準額二万五〇三〇円を基準として、本件番外地の訴訟物の価額を算定したものである。

(二)  従つて原審訴状訴額において、控訴人のした訴額算定に何らの違法はない。

(三)  しかるに原判決は本件番外地は区画整理後の四八の一、二の土地であると事実を誤認した違法があるので本件控訴に及んだものである。

理由

一  当裁判所も控訴人の本件訴を不適法として却下すべきものと判断する。

その理由は次に付加訂正するほかは、原判決の理由一項に記載するところと同一であるから、これをここに引用する。

(一)  原判決四枚目裏終りから二行目「職権によつて調査した結果」の次に「(本件記録一二五ないし一三一丁)」を加え、五枚目表一行目冒頭から「該当し」までを『三八・一四平方メートル」として固定資産の評価上取扱われて来た土地と照応するものであり、』と改める。

(二)  訴額は訴をもつて主張する利益によつて算定されるべきものであるから、訴額が土地の価格に相当するものであるときは、訴の提起時における当該土地の適正な取引価格をもつて訴額とするのが正当であるが、土地の取引価格は地域ごとに異なるうえに逐年変動するものであるから、訴が提起されるたびにその目的たる土地の価格を裁判所が認定することになれば、煩に耐えない。そこで、一筆ごとに国又は地方公共団体の認定した価格が登録されているときは、これに依拠して訴額を算定するのが適当である。地方税法が固定資産税の課税標準として土地台帳に評価価格を登録すべきこととしていた時代には、右課税標準価格はほぼ訴額算定の基礎とするに足るものであつたが、全国的な土地価格の高騰に伴い固定資産税額が急上昇することを抑止し、また農地の固定資産税の上昇を抑えて農家収入の安定を図ること等の政策的見地から、昭和三九年以降は地方税法の改正により土地の固定資産税の課税標準額は評価価格よりも低額に定められるようになつた。そのため、固定資産税の課税標準は単に税額算定の基礎としての意義を有するにすぎないものとなつて、公けに認定された土地の価格としては、固定資産税の課税台帳に登録される評価価格が、その意義を有するものとなつたというべきである。ちなみに、控訴人の指摘する最高裁判所民事局長通知についても、同局長昭和三九年六月一八日民二第三八九号通知により、右と同旨の見解が示されている。

二  したがつて本件訴を不適法として却下した原判決は正当であるから、本件各控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条に従い、なお原判決の当事者の表示中に明白な誤記があるので、職権によりこれを更正することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 大和勇美 櫻井敏雄 渡邊公雄)

【参考】 第一審判決

(青森地裁 昭和五二年(行ウ)第四号 昭和五三年一一月二八日判決)

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<略>

理由

一 原告は請求の趣旨記載の裁判を求めるとして、金二、〇〇〇円の手数料を納付した。しかして、右請求の趣旨は、請求原因の記載にてらし、被告登記官に対し原告申請の本件土地の所有権保存登記申請の却下処分の取消及び右登記の実行、被告局長に対し原告申立の右却下処分についての審査請求の棄却裁決の取消を求めるものであると解され、したがつてその訴額は本件土地の価格に相当するところ、当裁判所が職権によつて調査した結果によれば、本件土地は区画整理後の「八戸市大字沢里字藤子四八番一畑二、四〇三平方メートル及び同所同番二宅地二三八・一四平方メートル」に該当し、その昭和五二年度固定資産税評価額は金一、一三四万六、八九〇円であると認められ、したがつて本件訴について納付すべき手数料は金五万九、九〇〇円である。

そこで、当裁判所は原告に対し、納付済み手数料との差額金五万七、九〇〇円を送達の日から二週間以内に追納付するよう命じ、右命令は昭和五三年三月一四日原告に送達されたが、原告は未だこれを納付しない。

二 よつて、本件訴は不適法として却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次 吉武克洋 池谷泉)

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